インドネシアはバリ島に兄貴こと丸尾孝俊さんという大富豪がいることは知っていました。丸尾さんに関する本は、「成功を引き寄せるアニキのオキテ」などいくつか買っています。
それが今度は、近くのマレーシアにも日本人大富豪がいると言うのです。この本はおそらく、ダイヤモンド社の飯沼一洋さんのFacebook投稿で見て、買ったのだと思います。
この本は、とある大企業の会長からマレーシアの大富豪を紹介された編集者が、5日間掛けてインタビューして書いた体裁になっています。しかし著者名はその大富豪の小西史彦(こにし・ふみひこ)さんになっています。
最初はそれほど期待していなかったのですが、読み進めるごとに惹きつけられ、一気に読み切ってしまいました。また、ここはと感じてページにつけた折り目は、非常に多く、ここで引用すると長くなるだろうなと感じたほどです。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「だから、私は、自分の夢をかなえるためには、「戦う場所」を選ばなければならないと、はっきりと自覚していました。」(p.32)
小西さんがマレーシアに渡ったのは、最初から事業家になりたかったからです。日本ではすでに高度成長が始まって大資本が支配していた。だから競争が少なくて、しかもインフラが整っているマレーシアを選んだのだそうです。
「「持たざる者」であることが、自分にとっての最大の強みであることに気づいたのです。「持たざる者」であるがゆえに、たとえ失敗したとしても失うものが何もない。だからこそ、ハイリスクが取れる。」(p.40)
いくら「戦う場所」を選ぶとは言え、いきなり国外に飛び出すというのはハイリスクです。しかし小西さんは、もともと失うものがないから、思い切ったことができたと言います。逆転の発想ですね。
もちろん無謀なことをしたのではなく、用意周到に準備したとも語っています。
「あなたの言うとおり、人生には想定外のことが起きるのです。未来のことは誰にもわからない。どんなに慎重にリスクを量っても、想定外の事態に巻き込まれるのが人生。だからこそ、先ほども言ったように、最悪の事態が生じても生き残る術を確保したうえで、リスクをとらなければなりません。」(p.53)
小西さん自身、様々な想定外を経験されています。そして窮地に陥りながらも、復活してこられたのです。そういう想定外があることも含めて、リスクを取らなければ何も得られないと言います。
「そして、人物を見極めるひとつの指標が、窮地に陥ったときに、「目の前」の問題解決にどれだけ誠実に向き合うか、ということです。多少、不器用でも構わない。トラブルから逃げずに、全力を尽くす人間は信用できる。そして、そのような人物には、自然と支援の手が差し伸べられる。人生が切り拓かれていくのです。」(p.56)
人生にピンチは付きものです。でも、そんな時でも逃げようとせず、腹を据えて向き合うこと。そういう誠実さと粘り強さがあれば、必ず道が開かれると言うのですね。そして、それができる人間なら信用できると。周りから信用される人間は、必ず助けられるのです。
「要するに、「先輩にかわいがられなければしょうがない」ということです。そのためには「下積み」「下働き」は非常に有効なのです。どんな頼み事でも、イヤな顔ひとつせず笑顔でやる。しかも、頼まれた以上の成果をお返しするつもりでやる。すると、さらに頼まれます。そうやって頼まれたことを全部こなすうちに、信頼されるようになる。」(p.70)
頼まれごとを断らずにやるというのは、小林正観さんも言われてますね。そうすれば先輩からかわいがられ、信頼され、チャンスが巡ってくるのだと小西さんは言います。
「重要なのは「損得」ではなく「好き」という感情です。「好き」だからこそ、どんなにひどい目にあっても、あきらめずにがんばることができる。そして、ひとつの場所で粘り強く努力することによって、本物の実力を身につけるのです。」(p.86)
「戦う場所」を選ぶにしても、そこが「好きな場所」でなければいけないと小西さんは言います。損得よりも好きかどうか。それが重要なのですね。
また、若いうちは自分の「好き」が何かよくわからないことも多いと言います。だから決めつけずに、いろいろ経験してみることだとも。
「成功したければ、チャンスが来たら迷わず飛び乗ることです。チャンスの女神に後ろ髪はない、と言われるとおり、訪れたチャンスは瞬時につかまえなければ、すぐに過ぎ去ってしまいます。そして、二度と戻ってはこないのです。」(p.97 - 98)
チャンスは必ず巡ってくると信じて待ち、やってきたら恐れずに飛び乗ること。これが成功する秘訣だと小西さんは言います。
「"I trust you, before you trust me." これが、私の信条です。「あなたが私を信頼する前に、私はあなたを信頼する」。この言葉を胸に日々のビジネスに向き合っています。もちろん、この言葉を発する前には、じっくりと人物を見極めます。」(p.103)
人物を見極めた上で、この人だと思えば徹底して信頼する。それが小西さんのやり方です。人物を見極めるには、「動物的な勘」を研ぎ澄ますことが重要だと言います。年の功というものもあると。そうだとしても、「人を信頼する経験をする」ことが重要だと言います。失敗を重ねながら、その能力を身につけるということです。
「自分にとってフェアであることが、相手にとってはアンフェアである可能性は捨てきれない。これを認識することこそが、謙虚であることだと私は思います。そして、フェアネスを保つためには、この謙虚さこそが不可欠だと自分に言い聞かせているのです。」(p.121)
何事もフェアであるべきだと主張する小西さんですが、相手には相手のフェア(正義)があることも知っておくことが重要だと言います。だから、まずは「相手を理解し、尊重し、助ける」ことなのだと。異文化の中で暮らす上で、大切な指針だと思います。
「何よりも大切なのは、世の中にとって価値があるもの、自分にとって価値があるものに投資して汗をかくこと。価値あるものを生み出すためにお金を使うことに、意味があるのです。これが、私の金銭哲学です。」(p.153)
ただお金を集めれば良いわけではない。自分が贅沢をすれば良いわけではない。それによって世の中に役立つ何かを生み出すためにお金を使うことが重要だ。そう小西さんが考えておられます。
「世の中の「悩み」や「問題」をつかみ、それを解決するためにビジネスをオーガナイズする「媒介」となる。重要なのは、相手の気持ちをよく理解して、相手を動かすようなコミュニケーションをとること。これは、セールスマンシップそのものなのです。
このセールスマンシップは、いわば私の人生の背骨のようなもの。私のビジネスを根本で支えるバックボーンなのです。そして、これは座学だけでは決して学ぶことのできないものです。現場で汗をかいて、ときには痛烈な失敗をしながら身体でつかみ取っていくほかないものなのです。」(p.159)
セールスに物は要らないと小西さんは言います。物を売ったり買ったりするのがセールスではなく、ここで言うセールスマンシップこそが重要なのです。
こういうバックボーンを持つことが重要だと小西さんは言います。それはセールスマンシップでなくても良くて、経理・会計の技術などでもかまわないのだと。自分の強みを軸にして、自分の背骨を作ることが大切なのです。
「覚悟を決めた人間は強い。
そして、人間はひとりになるから覚悟が決まるのです。」(p.186)
小西さんは、すべて自分1人でやってきたと言います。たとえそれが大企業が相手でも。相手方はぞろぞろと十人くらい交渉の場に出てきたりしますが、小西さんの気迫は、それを跳ね返すものがあったとか。小西さんに言わせれば、人数を頼むのは自信がないからで、烏合の衆に見えてしまうそうです。
「だから、ひどいショックに襲われたときは、そこから一旦立ち退くことです。努めて、そのことを考えないようにする。そして、運動をして身体を疲れさせて、ぐっすりの眠るのです。」(p.217)
ショックを受けた時、慌てて何かをすると必ず墓穴を掘ると言います。まずは落ちついて、冷静な精神状態になってから決断することが重要なのです。
「だから、自信をもとうとする必要はないと思うのです。それよりも、世の中に対して「畏(おそ)れ」をもつこと。そして、不安を味方にすることです。不安に打ち勝つために、出来る限りのことをする。その結果、あなたのなかに自信などなくとも、相手にはあたかも自信があるかのように映るのです。」(p.224)
小西さんは、自分は自信を持ったことがないと言い切ります。しかし周りからは自信たっぷりに見られるのだと。
小西さんは、畏れを持ちながらも必死になって生きているから、気迫が生まれるのだと言います。それが相手には自信と映るのですね。そういう、相手から自信と見られる気迫は重要だとも言います。
これは言葉の意味次第のようにも感じます。小西さんが言う自信は、過信に近いもののように思うからです。謙虚さを兼ね備えた自信、たとえ失敗しても自分は大丈夫だという自信、それが本当の自信だと思います。小西さんはそれを「貫禄」という言葉でも表現されています。
「重要なのは「楽観主義」です。成功するためには根性が必要ですが、それだけでは足りません。そのうえで、楽観主義者であってほしいのです。事業家として成功している人は、根性があって楽観主義者。絶対にこのふたつを兼ね備えているのです。」(p.262)
「楽観主義とは意志です。どんなにひどい状況になっても「いや、まだ手はあるはずだ」「解決策はあるはずだ」と信じて、考え抜くこと。そして、行動を起こすこと。この楽観主義こそが、窮地から私たちを救い出してくれるのです。」(p.262)
先ほど「畏れ」を持てと言った小西さんですが、一方で楽観主義であれと言います。これも一見、矛盾しているように感じますが、そうではありません。細心の注意を怠らず、可能性はあきらめない。そういう姿勢なのです。
「そんな私を支えてくれているのが、「心に太陽をもて、唇に歌をもて、そうすりゃなんだって怖くないんだ」という言葉なのです。太陽とは「明るさ、情熱、希望」の象徴。どんなにつらいときでも、心に太陽をもち、どんなに落ち込んでいても、歌をうたってそれを跳ね返すという意味でしょう。そうすれば、どんな恐怖にも打ち勝てる。そう励ましてくれる言葉なのです。」(p.281 - 282)
小西さんは、子どものころ吃音があって、小学校3年生の夏に1ヶ月ほど、矯正するための学校に通ったそうです。その学校で毎朝唱和したというのが、先ほどの詩なのだそうです。その詩が、小西さんを支えてきたのですね。
「しかし、こう思うのです。結局のところ、私たちは人生で遭遇する出来事に、そのときそのときの最大の知恵で対処するしかないのだ、と。そこには客観的な正解などないのではないでしょうか? 精いっぱいの知恵で決断をする。そして、その結果として起こる出来事を引き受けていくほかないではありませんか。できるのは、どんな事態を招いたとしても、「心に太陽をもて、唇に歌をもて」という言葉を胸に、ひたすら明るい方へ明るい方へと歩み続けること。それ以外にないと思うのです。」(p.204 - 205)
小西さんでも、後から自分が下した決断に、本当にそれが正解だったのかと迷うことがあると言います。しかし、絶対的な正解というものはないのですね。その時点ではそれが正解だと決めた。それだけなのです。
「むしろ、今は自分にこう言い聞かせています。
自分を苦しめた人物に感謝できるような生き方をしよう、と。」(p.295 - 296)
今は大富豪として成功していると見られる小西さんですが、たくさんの辛酸を嘗めるような出来事があったそうです。多くの人から苦しめられ、侮辱され、騙されてきたと。しかしその度に、その屈辱をバネにして頑張ってきたそうです。
そういう頑張りがあったからこそ今の自分がある。だから、自分を苦しめてきた人びとにも、「成長させてくれてありがとう」と感謝できる日が来るのではないかと考えているそうです。
「いまだに、そんな心境になっているわけではありません。しかし、ネガティブな感情に囚われてしまうよりも、その努力をするほうが清々しい気持ちでいられます。それこそ、「心に太陽をもて、唇に歌をもて」という生き方だと思うのです。」(p.296)
これが、小西さんの生き方なのですね。相手を信頼する。環境を恨まない。目の前のことに全力で取り組む。決して諦めない。そうやって、「自分の人生に不満なし」という境地に至られたのだと思います。
読み終えて、期待以上の内容に感無量です。こういう日本人がおられるということは、とても励みになります。
ただ、小西さんは平凡な人間だと自分のことを言われますが、私にはそうは思えません。やはり非凡です。そして、私には小西さんと同じことはできないなあと思ってしまいます。やはりブレーキ(怖れ)があるからです。
でも、無理に小西さんのようにならなくても良いと思うのです。私には私の特徴があるのですから、その特徴を活かせば良いのだと。
その上で、小西さんの生き方には感銘を受けます。共感します。そして、その生き方を参考にし、自分のために役立てたいと思うのです。
