2016年12月01日
二つの祖国
近代日本史について書かれた記事か何かに、山崎豊子さんのことが書かれていました。それでこの著者に興味を持ち、代表作を1つでも読みたいと思ったのです。
いくつかある候補の中で、なぜかこの小説を選びました。発表時は連載小説ですが、買ったのは文庫本です。他にもいろいろな形態の本があるようです。
なぜこの小説を選んだのか、その理由ははっきりしません。けれども、読み終えた今、これを選んで正解だったと思います。
これは小説ですから、引用するのはやめて、大まかなあらすじと感じたことを書きたいと思います。
主人公は天羽賢治。日系移民一世の両親のもとに生まれた日系二世です。アメリカは、生まれた土地がアメリカならアメリカ国籍を取得できるので、賢治は両親が日本人ながらアメリカ人として育ちます。
しかし、第二次世界大戦前のアメリカでは、有色人種に対する差別が当たり前のようにありました。同じアメリカ人であっても、有色人種と言うだけで差別されたのです。
第二次世界大戦が始まると、露骨な差別がありました。ドイツ移民やイタリア移民は何もないのに、日本移民だけが収容所に入れられ、ひどい待遇を受けました。それは日系移民一世だけでなく、アメリカ人である日系二世もそうだったのです。
聞いたことがある歴史ですが、このように小説の形で読むと、当時の日系移民の苦労がいかばかりかと、想いを寄せずにはおられません。
さらにアメリカは、日系二世を戦争に使おうとします。これは、日系二世側からの要請もありました。アメリカ国民としての忠誠心を示すことによって、自分たちの立場を守ろうとしたのです。
賢治は日系二世として、戦争に参加することになります。賢治の弟たちも、それぞれの立場で戦争に参加します。日本に戻った次男は日本軍に入り、三男はアメリカ軍としてヨーロッパ戦線へ。
兄弟が戦場で敵味方として相まみえるかもしれない。そんな状況が生まれました。賢治の両親の思いは、いかばかりだったでしょうか。
そして、終戦を迎えます。広島、長崎に落とされた原子爆弾。勝者が敗者を裁く東京裁判。賢治は、それらに深く関わっていきます。
自分がアメリカ人として忠義を示し、アメリカは正義の国であるべきだという賢治の考えは、受け入れられることはありませんでした。そして、忠義を示した賢治ですが、アメリカはそれでも疑いの目を向けるのです。
自分はアメリカ人なのか、日本人なのか。どういう人間として生きれば良いのか。深く深く悩む賢治の心に思いを馳せる時、国籍とは何なのか、人とは何なのか、様々な思いが去来します。
ここで描かれている東京裁判の様子が、どこまで本当のことかはわかりません。しかし、詳細に描かれています。それぞれの被告に、それぞれの思いがあったのだろうと思います。
裁かれて犯罪者となったから悪い人だ。そんな単純なことが言えるのか? 私は、そうは思えません。もちろんだからと言って、正しかったとも簡単には言えないのです。
それぞれに、それぞれの正義があった。そして、その自分の正義を貫いた。その結果が、この歴史なのだろうと思います。
近代史を深く知る上でも、この小説は役に立つと思います。もちろん、純粋に小説として楽しむのも、悪くないと思います。特に若い人には、ぜひ読んでいただきたい小説です。
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